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「善く敗るる者は亡びず」
いままであまり深く考えたことがなかったこの言葉が、最近心に響いています。 きっかけは、北村薫の直木賞受賞作「鷺と雪」の中での引用。 「鷺と雪」は、書籍としては「街の灯」「玻璃の天」から続く短編集3部作のシリーズものですが、この中の「玻璃の天」の第1話「幻の橋」と「鷺と雪」第3話「鷺と雪」の2箇所でこの故事成語が引用されています。当初「街の灯」を読んだ時は、昭和の東京の風景を、詩情に満ちた表現で再現したライトなミステリーという感覚で、主人公が少女であることから、「空飛ぶ馬」シリーズの昭和初期に舞台をとった焼き直し版という感触もあったので、「悪くないけど、直木賞を取るほどの作品だろうか」と思っていたのですが、「鷺と雪」まで読み終えてみると、「善く敗るる者は亡びず」というこの言葉が、戦前戦後の日本の興亡を的確に捉えた言葉だと思えるようになり、時間が経つにつれて、じわりと胸に迫ってくるようになりました。 「善く敗るる者は亡びず」は、「漢書」の「刑法志」に登場する言葉で、「善く師する者は陳せず」「善く陳する者は戦わず」「善く戦う者は敗れず」に続く言葉で、これらの言葉は、「幻の橋」(文庫版p84)では以下のように解説されています。 「うまく軍を動かす者なら、布陣せずにことを解決する。しかし、その才がなく敵と対峙することになっても、うまく陣を敷ければ、それだけでことを解決できる。さらに、その才がなく実践となっても、うまく戦えば負けない」 ところが、「幻の橋」でも「鷺と雪」でも、「善く敗るる者は亡びず」については、特に解説がありません。そこで、「漢書」を取り出してきて、この含蓄ある言葉が一体どういう経緯で使われているのか、問題の箇所の前後を見てみました。すると、語源となった背景として語られている事件は、意外にしょぼい話であることがわかりました。春秋時代の楚の昭王(前515-489年)の時代、闔閭(前514-496年)王の元、急速に力をつけた辺境の国呉が、楚からの亡命者伍子胥に率いられて楚の都、郢を陥落させ、昭王が隋国に亡命し、その後、楚の家臣申包胥が秦に救援を求めにいき、秦公の庭で7日7晩救援を訴え続け、その忠誠心にうたれた秦公が出兵し、昭王は郢を回復することができた、という事件です。これが「善く敗るる者」なのかなぁ。単に敗北して亡命し、他国に救援を求めて、他国の力で回復しただけで、歴史上ありふれた出来事だし、特に含蓄ある内容の感じられる事件ではないじゃないの。と少々がっかりしてしまったのですが、しばらくしてくると、この言葉は、寧ろ、「鷺と雪」において、作者によって、この言葉が持つ本来の意味を付与されたと思えるようになってきました。 この言葉が、日本を日中戦争へと向かわせた、いくつかあるターニングポイントの中の、おそらくもっとも重要であろう事件のひとつである226事件前夜に、その後の全てを予感させる言葉として、登場人物たちに語らせたこと、そうして、「亡びず」という言葉通り、戦後の日本が復興を遂げたという結果があること。「鷺と雪」終盤の記述をひとたび読んでしまうと、これ以上に、「善く敗るる者は亡びず」という言葉にさわしい使われ方、背景となった事件は無いのではないか、と思えるほど、絶妙な引用だと思えるようになってきました。 「鷺と雪」は、終盤近くのこの言葉一発で、単なる軽目の時代劇短編連作を越えて、重厚な歴史作品に匹敵する程の「歴史作」となったように思え、この作品が直木賞受賞作であるのも納得できるようになりました。 更には、最近の日本が戦後繁栄のピークを越え、衰退期に入ってきているのではないかとの議論もある昨今の日本人にとっては、「善く敗るる」という言葉は、「今後の衰退をどのように乗り越えるのか」という観点で、胸に迫るものがあるのではないでしょうか。負けが見えている戦い、衰退期の社会にとって、「善く敗るる」という言葉は、その後の具体的な希望が見えない段階においてこそ、力となる言葉なのではないかと思うのです。この意味では、この言葉がやたらと胸に響いているのも、昨今の私自身の状況にも重なるようにも思えるのです。40歳を越えて人生後半に入り、成功をしているとは言えない状況で残りの人生をどのように生きるのか、という点で、今の私には、「善く敗るる」という言葉は、重要なキーワードとなりつつある感じです。 久々に味わい深い歴史小説に出会ったという点、現在の日本や、自分自身と重なる点、など、多くの点で、「鷺と雪」は、私にとって強い印象を残す作品となりました。 ■
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by zae06141
| 2009-10-25 18:37
| その他歴史関係
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