古代世界の午後雑記(移行中)


「古代世界の午後」更新履歴と雑記
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名誉殺人映画:トルコ映画『Bliss』、インド映画『Nh10』等

 トルコとインドの名誉殺人映画の紹介と感想です。

 本当は、この手の社会問題を扱った映画は見たくはないのです。映像の力は圧倒的で、洗脳させられてしまう威力があるからです。専門書の場合、いくらイデオロギーに偏った書籍であっても、まともな書籍なら巻末に参考文献があり、それを辿っていけば、必ず異なった視点・まったく正反対の視点から書かれた書籍や論文に行き着けるからです。映画(ドキュメンタリーも同じですが)の場合、エンド・クレジットに参考文献が表示されるわけではないので、実態はどうなのか、は結局書籍や論文、調査報告書などをあたるところからはじめなくてはなりません。

 というわけで名誉殺人に限らず、突っ込んで調べる気構えの無い社会問題については、それをテーマとした映画はあまり見ないようにしてきたのですが、IMDbでミステリータグがついているお陰で、見る羽目に陥ってしまいました。ネットで「名誉の殺人」とされている作品も、意外に扱い方が様々であることもわかり、そのあたりの解説もあった方がいいかな、と思い、本記事を書くことにした次第です。







 まず、映画を見る前に以下の3編のpdfと書籍を1冊読みました。アラブ圏に関する書籍は多数でていますが、トルコとインドに関する名誉殺人の実態を包括的に研究した書籍は、日本語ではあまりでていないようです。インドの名誉殺人について書かれた日本語書籍は、現在でも裁判が継続中の事件に関するルポルタージュ『インドの社会と名誉殺人』2015/10 チャンダー・スータ ドグラ 著)だけしかないようで、全体像を描いているわけではなさそうです。そこで、まずはインドの名誉殺人の現状については以下を読みました。

名誉殺人―現代インドにおける女性への暴力 田中 雅一 現代インド研究 第2号 59–77頁 2012年』(PDF)

トルコにおける名誉殺人については、以下を読みました。

名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち 2013/8/9 アイシェ・ヨナル著

トルコの名誉殺人』村上薫 アジ研ワールド・トレンドNo.233(2015年3月)(PDF)

トルコにおけるナームス(性的名誉)への視点:最近の研究動向』村上薫 『ジェンダー分析における方法論の検討』調査研究報告書 アジア経済研究所(2013年2月、PDF)


幾つか作品を視聴して思ったことは、インドにおける名誉殺人を描いた映画として検索して直ぐに出てくる作品は、正面から名誉殺人を扱った映画ではない、ということです。検索エンジンや、パーソナライゼーション具合にもよりますが、検索して直ぐに出てくる作品は『Nh10』だと思います。一方、トルコに関しては、上記アイシェ・ヨナルの著作は映画並みにエモーショナルな展開を見せ、ノンフィクションというより半分小説なので、事例集として参考にはなったものの、かなり慎重に読む必要がある本だと思いました。


■『Nh10』(2015年)(英語字幕DVD

 本作は、2015年のカナザワ映画祭の田舎ホラー特集で『印度国道10号線』というタイトルで上映されたようです。ホラー映画というくくりとなっているところが注目されます。私は前知識なしで視聴したので、ポスターにある、主役と思わしき女性がゴルフをしているような画像に、「いつゴルフが出てくるんだ」などと思いながらみていたので、これが名誉殺人を扱った映画だとわかった時は驚きました。本作が社会問題を扱った映画ではなく、ホラー映画として日本で上映されたことからわかるように、本作は、基本的に娯楽作品です。日本でいえば、横溝正史とか藤本泉の世界です。藤本泉という作家は、最近では忘れられている作家だと思いますが、1977年『時をきざむ潮』で第23回江戸川乱歩賞を受賞した方で、犯罪事件の捜査の上で、日本の地方(特に東北地方)の因習の調査に踏み込んでしまった都会の刑事が、いつの間にか田舎におびき寄せられ、村ぐるみで謀殺される、というワンパターンな作品が多い方です。東京に逃れたとしても、いつの間にか近所や同僚の中に、当該の田舎の村の出身者が身分を隠して集まり、やはり謀殺される、というような、都心で暮らしていても背筋が寒くなるような内容です。ワンパターンな筈なのに、ストーリーや設定は作品毎にバラエティがあり、それぞれ読み応えがあります。作品は都会側の視点で描かれていて、普通に読むと、前近代的な地方の因習というものに否定的な印象を受けてしまうものの、実は作者の藤本氏は田舎側の立場に立っている、という点が重要でしょうか(この作家には、東北の古代以来の原始共同体の、中央権力に対する抵抗、というテーマがあります)。

 藤本作品に対して、『Nh10』は、名誉殺人などはできるだけ早急に無くすべきだ、というような都会人の視点で描かれており、カナザワ映画祭でも『ホラー映画特集』の枠で上映されていました。名誉殺人が、ホラー映画のような娯楽作品の題材として描かれることは大丈夫なのか?と心配になる程です。現在IMDbのレビューは61書かれていて、殆どインド人が記載しているのですが、ざっと目を通したところでは、名誉殺人を娯楽映画の題材にするなぞ不謹慎だ、というような意見は無さそうです。

 カナザワ映画祭の視聴者は『悪魔のいけにえ』を引き合いに出されている方が多く見られますが、私の印象は、『悪魔の追跡』の方です。なお、本作のプロットは、2008年英国スリラー映画『バイオレンス・レイク』のパクリですが、それでも本作は名誉殺人映画だといえそうな内容となっています。娯楽作品としてもよくできているので、日本語版dvdの発売を期待しています。


■『Aakrosh』 (2010年)(英語版DVD

 本作を、名誉殺人を扱った作品とか、インド版『ミシシッピー・バーニング』と記載している記事がありますが、誤りです。本作は、米映画『ミシシッピー・バーニング』のリメイクそのものです。本作で名誉の殺人と関係している部分は、「名誉の殺人を語ったカースト殺人」であるという点と、ラストで「インドでは名誉殺人を装った単なる殺人が多数発生している」というナレーション部分だけで、本作は米国の黒人差別と黒人の殺害を、インドのカーストに置き換えただけです。しかも『ミシシッピー・バーニング』が実話に基づいているのに対して、本作は、インドの実話に基づいているわけではありませんから、本作を名誉殺人の映画というのは無理があります。私個人としては、これをインドのカースト問題を扱った社会派映画と考えるのも無理です。『ミシシッピー・バーニング』との比較については、こちらに記載していますので、ご興味があればご参照ください。

■『Talvar』 2015年(英語字幕版DVD

 2008年にインドのデリー近郊ノイダ地区で発生したノイダ連続殺人事件を扱った作品です。2011年の、1999年に発生したジェシカー・ラール殺人事件を扱った映画『No one killed Jessica』と同じ部類の作品で、事件とその後の裁判を描いています。違いがあるとすれば、『Talvar』は政治や捜査の問題点に、『Jessica』は、司法と権力に焦点が当てられている点でしょうか。どちらも見応えがありましたが、少し調べただけでも、やはり映画は映画で、特定の人物に同情が集まるように出来ているなど、各種先入観が出来てしまい、困ったことです。この記事の目的は、本作が名誉殺人作品なのか、にあるので、感想は省略しますが(「これでインディア」様の記事「アールシ・タルワール殺害事件」の記事に事件の概要と問題点(特にインドにおけるメディアの問題)、映画の紹介は、同じ方の別サイトの記事「Talvar」に詳細にまとめられています。ただ、黒澤『羅生門』とはちょっと違うと思いますけれど)、結論から言えば、名誉殺人問題を描いた作品ではありません。裁判自体は、「名誉殺人」として処理され、被害者の両親が殺害者として収監されて終わるわけですが、被告は殺人も名誉殺人も認めたわけではなく(この点、殺害は名誉であるとして自白する事案が多いトルコの名誉殺人とは異なっています)、確定的な証拠が無いまま、「名誉殺人」として結審した、という事件なので、インドにおける名誉殺人に関する議論が映画の中で論じられているわけでもありません。

■『Rahasya』(2015年)(英語版DVD

 これもノイダ連続殺人事件を扱った作品ですが、実際の事件とは異なる「真相」をつけた、日欧米の感覚でも完全なミステリー映画となっています。本作については次々回ご紹介したいと思いますが、殆ど事件に乗じた便乗商法という感じ。これだけであまりいい感じはしないのですが、映画の出来としても、2時間ドラマよりまし、という感じです。まあそれはともかく、ネタにしたノイダ事件が名誉殺人とされた、という点以外は、名誉殺人とは関係ない作品でした。



 以上4作紹介しましたが、まだ調査不足なのかも知れませんが、インド映画で正面から名誉殺人事件を描いた映画はまだなさそうな感じです。社会問題として正面から描く作品が登場する前に、娯楽作品『Nh10』が出てしまった、という感じもしなくはありません。現情報収集&視聴段階では、もっとも名誉殺人を正面から扱った作品といえそうなのは、娯楽映画の『Nh10』だ、ということになりそうです。

 インドに対して、トルコでは、正攻法で扱った作品があります。

■『Bliss』(2007年)(英語字幕DVD
 

 本作は、「アジアフォーカス福岡国際映画祭2008」で『至上の掟』という題名で日本公開されています。これは良作です。原題のBlessは幸福という意味で、「何が幸福なのか?」ということを問いかけてくる作品となっています。基本的に名誉殺人に批判的な立場から描かれていますが、欧米的な女性像(ビキニで男性と会話する)などに、名誉のために強制自殺させられそうになった主人公の少女が違和感を抱いたり、結果的に逃亡者となってしまった主人公カップルを救う欧米的価値観の持ち主である大学教授は離婚問題に直面していたことがわかる、など単純に欧米的価値観の作品とはなっていない点が、本作に深みを与えています。

 強制自殺執行者であったものの、飛び降り自殺する少女を助けてしまう主人公の男性も、仮に将来主人公と結婚したとしても、何かの拍子に家庭内暴力を振るいそうな気質も描かれていて※1、殺人に至らないまでも、名誉に基づく暴力を無くすことは容易ではなく、数世代、あるいはそれ以上かかる、本当にこの問題は簡単ではない、と(映画とはいえ)考えさせられる作品でした。映像も美しく、良作です。是非日本でもDVDが出て欲しいと願う次第です。


 ただ、冒頭で挙げた書籍『名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち』の中に登場する事例と比べると、本作で描かれた名誉殺人の事例は、事件の発端が明らかに犯罪で、善悪的な感情移入がし易い、映画化し易いわかりやすい事例だといえそうです。今後、もっと難しい事例の映画についても登場して欲しいものです。


※1トルコではDVが多いようです。以前ご紹介したトルコの警察映画『狩猟の季節』でも、登場する三名の警官のうち、中年の警官が、別居中の妻に暴力を振るう場面が登場していましたが、これはDVの範疇ではないかと思います。


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by zae06141 | 2016-07-03 00:14 | その他小説・映画関連 | Comments(0)
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