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東京国立博物館で4月12-6月19日の間開催中の『黄金のアフガニスタン展』に先日ようやく行くことができました。展示会の混雑が苦手なので、通常は休暇を取得していくようにしているのですが、3-6月は一年で一番仕事が忙しい時期(6月期首のため)なのでなかなかいけないうちに展示会終了が近づいてきてしまい、一昨日、午後出勤にして午前中、なんとか行って来ることができました。このように書くと、展示会の感想記事だと思われるかも知れませんが、この記事の目的は、展示会の感想ではなく、展示会カタログがいかに良書であるか、について書くことだったのですが、結局展示会の感想になってしまいました。展示会の感想はネットでもでてきますが、カタログについて書いている記事は、現在のところなさそうなので書いてみました。
国立西洋美術館で開催中の『カラヴァッジョ展』は、12日で開催終了であるためか、開館10分前に通りかかった時には既に200人程並んでいました。『黄金のアフガニスタン展』の方は開館待ちの方々が50人程度でした。欧米系外国人旅行者が1/4、修学旅行学生が1/4くらいという印象です。そんなに混んでいるような感じではありませんでしたが、入館してみると、各展示物の前に平均1-2人がいる感じで、そこそこの込み合いでした。これ以上の混雑だと体力とストレス消耗の点で私には辛かったかも知れません(こちらのサイトで、『黄金のアフガニスタン展』混雑状況ツイート集計がありますが、サンプル数が少なすぎて、あまり参考になりません。こちらの『カラヴァジョ展』の混雑状況ツイートは、妥当な感じです)。 展示物は、概ね東京国立博物館の『黄金のアフガニスタン展』ページの「展覧会のみどころ」に掲示されている遺物の通りで、アイハヌム遺物の部分は加藤九祚著『シルクロードの古代都市――アムダリヤ遺跡の旅』(岩波新書)に登場する遺物が見れます、という感じ。ティリヤ・テペの埋葬遺物も、「展示会のみどころ」写真以上のインパクトはそれほどなく、唯一インパクトがあったのは、ベグラム秘宝のローマ時代の多数のガラス器、特に多数の魚型フラスコを見れたところでしょうか。あと、今回展示はなかったのですが、ティリヤ・テペ6号墓の埋葬者の胸の上か足元に(メモが混乱していて足元か胸元かどちらか)前漢の青銅鏡が置かれていた、という情報でしょうか。ティリヤ・テペのティベリウス帝金貨や、ミトリダテス2世王銀貨などは展示されていて、ローマ、パルティア、漢王朝の遺物が同葬されている、ということを知れたのは収穫でした(この銅鏡の写真は、ぱっと見カタログにも無かったように思えます。残念です)。この遺物は、クシャーナ朝の王が、貨幣銘や碑文から判明している、カエサル、シャーヒンシャー、マハーラージャ、デーヴァプトラ(天子)という、各文明圏の皇帝の称号を名乗った事例と並んで、クシャーナ以前の遊牧民支配時代も、ローマ、パルティア、インド、漢王朝など、当時のどの文明圏からも辺境であったアフガニスタンが別の意味では世界の中心であった、という点が明示されている貴重な遺物だと思います。 展示は、先史時代の第一章と、流出文化財の第五章はつけたしで、2-5章メインの展示です。 第2章 アイ・ハヌム出土物 グレコ・バクトリア王国時代(前3世紀~前2世紀) →ヘレニズムの影響 第3章 ティリヤ・テペ出土物 サカ・パルティア時代(前1世紀~1世紀) →トハラ・大月氏など北方遊牧民族の影響 第4章 ベグラム出土物 クシャーン朝時代(1~3世紀) →インド・ローマの影響 という具合に、アフガニスタンに影響を及ぼした文化圏の変遷が明瞭にわかる展示となっています。ティリヤ・テペの黄金の王冠は、日本で発掘された、群馬県前橋市金冠塚古墳出土の金銅製冠や、古代朝鮮の伝韓国慶尚南道出土の金銅鳥翼形冠飾(双方とも写真はこちらの左下)に似ていますし、若干遼寧朝陽市出土の花樹状金歩揺(画像はこちら)にも似ている感じがします。紀元前から紀元6世紀くらいまでの北方遊牧民族文化の幅広い伝播が感じられました。 カタログの話に移ります。 東京国立博物館のサイトで公開されている展示物リストでは、ティリヤ・テペの、6つの墓のうち、どの墓なのか、ベグラムの2室のうち、どちらの遺物なのかの記載がありますが、展示会場で無料で配布されていたリストには、墓番号や、室番号、および英語名が記載されていません。このため、わざわざメモをする必要がありました。 しかし、『黄金のアフガニスタン展 展示会カタログ』(2500円)は、無料配布リストの不備を補って余りあるものがありました。正直なところ、誰かが、この展示会カタログの解説をネットで公開していれば、多分私は通販でカタログを購入して終わったのではないかと思います。展示会カタログの中には、光沢紙を使い、見た目からしてもやたらに重いものも多いのですが、このカタログは軽めの紙質なので、本は結構厚めであるにも関わらず、見た目より軽い印象を受けます。それでいて印刷もきれいで、展示遺物の英語名も記載され、図面、地図、解説その他充実しています。ティリヤ・テペの黄金装飾は、小さすぎて、肉眼では細部の彫刻がわかりにくいものも多く、カタログの写真で見た方が遥かにわかりやすいと言えます。 私は、「百聞は一見に如かず」という言葉をかみ締めることが多いのですが、今回は、展示会よりも、展示会カタログの方に、この諺を実感した次第です。 とはいえ、今回展示会カタログは購入していないのでした。アフガニスタン展を見た後30分で『カラヴァッジョ展』も見たので、入場料合計3000円となり、必要な情報はメモにとったことでもあるし、これに関する投資は十分、と考えてしまったためです。しかし前述しましたように、展示会に行かず、本屋等でカタログを実見していれば、絶対購入していたでしょうし、これまでも、展示会場で買わずに帰り、その後通販で購入したことも再三あるので、そのうち購入してしまうかも知れません(カタログは、東京国立博物館のミュージアムショップで通販が可能です(こちらに『黄金のアフガニスタン展』のカタログページがあります)。 関連書籍 『季刊文化遺産 (第14号秋冬号) 文化の回廊アフガニスタン』 島根県並河万里写真財団・創英社(三省堂書店/2002年10月) 『アフガニスタンの歴史と文化』ヴィレム-フォーヘルサング著/明石書店/2005年 『シルクロード博物館』講談社/1979年
by zae06141
| 2016-06-12 00:22
| 古代イラン関係
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