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エジプト製ミステリー映画と聞いて視聴してみました。2014年エジプト製作。IMDbの評点が8.4という高評価を得ている作品です。
冒頭、やさぐれた中年さしかかりのグラサンのおっさんが登場し、ハードボイルドなのかと思っていたら、精神分裂症が疑われる服役中の殺人犯が登場してサイコ・スリラーっぽくなり、少しデヴィッド・リンチ入ってるかな、と思っていたら、結局全然推理映画ではなく、悪魔祓いのような感じになって(オカルト・スリラー?)結局ドラッグのせいでした、みたいな終わり方。よくわかりませんでした。 映画は170分あるのですが、視聴したのはテレビ版(151分)の英語字幕です。歴史映画では、多少わからない台詞があっても本筋に影響がなければストーリの把握に問題はないのでスルーしているのですが、推理ものとなると何気ない台詞に謎解きのキーがあったりするので、本作についてはわからない単語を辞書を引きながら視聴。視聴するのに3時間以上かかってしまったのですが、そこまでやってもよくわからない話でした(その後ラストシーンを見直したところ、落ちがわかりました)。ひとことで言えば、『マルホランド・ドライブ』や『ジェイコブズ・ラダー』という印象の作品です。ストーリーは全然違うのですが、テイストが似た感じ(本作視聴後、15年ぶりに『マルホランド・ドライブ』を見直してみましたが、ドラッグ落ちでなく、逆であれば、『マルホランド・ドライブ』だ、という感じです(その後ラストシーンを見直して、『マルホランド・ドライブ』や『ジェイコブズ・ラダー』とは別の、皮肉な終わりに、こういう落ちの映画って何本もみているような気がするのですが、今は何故かそういう映画の題名を思い出せないのが残念です))。 こちらの記事にエンディングに関する原作者(映画の脚本担当でもある)の話が掲載されていて、それによれば、小説の読者は少数で、かつページを戻って読み直すことができるが、映画はより広い視聴者が相手で、(小説のように読み返すことはできないことから)監督の要望で、映画では原作より視聴者受けするラストにした、というようなことが書かれています。IMDbのレビューの中には、映画の方は説明不足、という意見もあれば、小説とはまったく別ものと理解すべき、という意見、映画の改変部分はやらないほうがよかった、という意見や、映画のエンディングを誉めているものもあれば、180度違うラストになっている、という意見もあり様々ですが、全体的に非常に好意的です。いづれにしても、ミステリー映画とか、推理もの、というのとは違うように思えました。 本作を視聴してみて、気になった点は、まったくエジプト的な感じがしない、という点です。これをエジプト映画と知らずに英語の吹き替えで見てしまえば、欧米人でさえ欧米のどこかの国の話だといわれてもわからないのではないか、とさえ思える程です(実際のところは、英語吹替で騙して見せたとしても、薬による幻覚の中でアラビアンナイトな映像が登場するので、その部分で気づくだろうとは思いますが*1)。主要登場人物の女性の一人はグローバル企業で人事部長をやっていてフランスに出張したりしています。字幕に捉われるあまり、町の風景に登場する女性姿などまで気がまわりませんでしたが、主要登場人物の女性は全員ノースカーフです。エジプトの中のグローバル階層や世俗派などにはヒットするのかも知れませんが、それ以外のエジプト人にはどのように映ったのか、という点に興味が残ってしまう作品でした。欧米日以外の各国ミステリーへの興味は、もともとが世界各国の大衆文化への興味が主因なので、本作のエジプトの大衆文化における位置付けとなどが知りたいところです。 *1 この場面については、次回「歴史映像」という枠組みで少し記載したいと思います。この部分だけは、(映像がイスラムの歴史映像だから、という意味ではなく)映像感覚そのものに現地の香りみたいなものが感じられました。 IMDbのレビューは結構多く書かれていて(現在39レビュー)、中にはハリウッドへの対抗心むき出しのレビューもあります。エジプト映画新時代とか、エジプト映画の画期となる作品とのレビューもありますが、エジプト映画とはわからない(欧米的)、という意見もあります。映画一般としては7.5点くらいだけど、アラブ映画としては画期的で9点だ、というような冷静な意見も散見されます。USアマゾンで原作を検索したところでは、ヒットしたのはアラビア語版だけなので、IMDbでレビューを書いている人のうち、原作を読んでいる人はエジプト人(かその周辺のエジプト文化圏の国の人)だと推測されます。また各レビューアの英語がネイティブ的ではなく、グローバル企業で働く人の英語っぽい感じがします。つまり、英語でレビューを書いているような方たちは、エジプト人であるとしても英語のできるグローバル人材なのだろうから、レビューアの視点がそのまま標準的なエジプト一般人の視点とは限らない、ということです。ハリウッド的に洗練された作品が出てきたことは誇らしいことではあるのでしょうが、ハリウッドそのものになってしまってはどうなの?と思ったりした次第。なんというか、サイコ・スリラー映画であれば、ホドロフスキーの『サンタ・サングレ』の、むせ返るような中南米の香りとか、サスペンス映画であれば、だいぶ欧米化しているものの、インド的雰囲気の残るサスペンス映画『女神は二度微笑む』のようなものを期待していたので、この点期待はずれでした(『女神は二度微笑む』もインド諸語オンリー話者の反応などを知りたい点では本作と同じですが。どうでもいいのですけど、f****** とコメントアウトされているレビューをはじめてみました(たぶん*uckingですね)。もっともこのようにけなしている人は一人だけです(他に映画『The Tattooist』のパクリだとけなしている人がいた))。 Boxofficeには本作品が登録されていないので、実際どの国でいくら売上があったのか、調べ切れていないので、この点後日調べたいと思います(もしかしたらアラビア語のサイトに情報があるかも知れませんが、今回そこまではやりませんでした)。 エジプトにおける推理小説の伝統は、英国の植民地支配による英国の文化的影響が大きいらしいので、(オカルト・スリラーとはいえ)本作もその延長線上にあるのだろう、と取り合えず推測しておいてこの記事は終わりたいと思います。目の肥えた日本の視聴者にはありふれた作品かも知れないので日本語版dvdは出そうもないような気がしますが、出てくれると嬉しいかも。 といいつつあとひとつ。 1998年にチュニジアを旅行した時に、映画館でエジプト映画を見ました。本編が1時間15分くらいなのに、その前の予告編が40分くらいありました。その予告編というのが、中年に差し掛かった女性が愛するあまり恋人を殺してばらばらにしてしまう、という内容で、いかにもハリボテで作った首がシャワールームに転がるという、シリアスな内容でありながら、コメディにしか見えない出来具合でした。推理ものではないものの、犯罪モノではあるし、それがエジプト的なものかはともかく、欧米映画とは違うなにかを感じました。推理小説は英米の影響階層だとしても、それ以外の犯罪モノでは、より一般カルチャー的なものがあるように思えるので、今後少し探してみようと思っています。といっても、推理ものや陰謀劇は、歴史やアクション映画と違って細かい台詞がちゃんとわからないとどうにもならず、最低でも理解できる言語の字幕版(私の場合英語と中国語)が存在している必要があり、ハードルが高いものがありますが。。。 ところで、今回からしばらく、北米西欧以外のミステリー映画の紹介をしてゆきたいと思いますが、インド映画『Drishyam』(ヒンディー語版)(感想はこちら)は凄い!!今年視た映画No1になるかも。日本で公開するか、日本語字幕dvdの発売が出るまで当分、このフレーズを記事の終わりで繰り返したいと思います。 IMDbの映画紹介 予告編
by zae06141
| 2016-03-26 00:18
| 北米西欧日以外のミステリー映画
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