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古代世界の午後雑記(移行中)


「古代世界の午後」更新履歴と雑記
by Solaris1
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世界で150億の興行収入のあった映画『47 Ronin』は何が悪かったのか

 1994年当時、『ターミネーター2』が公開された時、予算の100億という数字に驚いたものです。1997年の『タイタニック』は予算200億という数字に呆然としました。しかし近年のハリウッド大作映画では、100億円の予算は月並みになってしまっています。米国や先進国だけではなく、グローバルでの興行収入を想定してマーケティングをやっているのだろうな~。いったいどういう地域売上比率になっているのだろうか。とこの半年くらい漠然と考えていました。一方、今月、昨年末に公開され大コケしたと評判の悪かった映画『47 Ronin』の興行収入が150億を突破しました。ロシアでは、過去ロシアで上映された歴代映画ベスト48位(本日現在。ロシア映画と海外映画含む。出典はこちらのロシアのサイトのランキング表)に入る興行収入を上げたとのことで、「日本でヒットしないのは仕方ないとしても、『47Ronin』自体は本当に駄作なのか」「宣伝やマーケティングに問題があったのではないか」などと若干興味が出できました。4月上旬のフランスでの公開を最後に世界各国でのロードショー公開が終了したので、この数値に基づいて、グローバル映画の売上地域構成の分析みたいなものをしてみました。売上数値は映画売上統計サイトBox Office Mojoのものを利用しています(以下more)。



『47 Ronin』は、175億(分かり易くするために1ドル=100円での円単位で記載します)の予算に対して売上151億円と、赤字なので、ビジネス的には失敗です。こちらの歴代損失額ランキング一覧表(宣伝広告費や映画館上映費用等関連コストを全て含んだ場合の試算表)では、当初予算175億に対して、撮影延期による追加予算50億円、その他宣伝コストや上映費用含め、総費用を約295億円と見積もっています。(この記事では売上146億円と情報が古いため、最新の151億で損失を計算すると)145億円の損失推計となり、損失見積もりでは歴代1位となっています(インフレーションの影響を考慮した場合は、『13ウォリアーズ』が1位で47 Roninは2位)。ビジネス的には大失敗ですが、売上151億円は少しは評価されてもよいのではないかと思います。近年の米国アカデミー賞受賞作品の大半(例えば第86回アカデミー賞の作品賞ノミネート9作のうち、150億以上は4作)が、150億に到達していないことを考えると、『47 Ronin』はそこそこ健闘していますし、まったくの駄作であれば、150億に到達することはなかったと思われます。特に、昨今の政治情勢を鑑みてのことなのか、中国と韓国では上映されていない為、中韓で上映されていれば、当初予算くらいには到達したのではなかろうか、などと考えてしまい、ここ2,3年の映画と地域別の売上比率を比較してみました(公開年が離れると、集計対象国にばらつきが出てしまう為、2,3年内の作品に絞っています*1)。なお、表を書いてから気がついたのですが、『47 Ronin』の作品ジャンル上西欧ファンタジー系(指輪物語やパイレーツ・オブ・カリビアンなど)と比較した方がよかったように思えるのですが、この所見たハリウッド大作作品はSFばかりなので、SF映画と比較してしまいました(『ハリーポッター』と『アイアンマン』は見ていません)。それでも何がしかの知見は得られた気がします。

*1 Box Office Mojoの北米以と西欧以外の集計国は、年によって変動していて、数年前は台湾やリトアニア、ルーマニアなどの国別項目がありましたが、今は、その他の地域(後述)に分類されているようです。


 表では、Boxoffice Mojoに掲載されている国を地域毎集計して割合を出し、2013年の名目GDPの割合(グラフ右端)と比較しています。
■東欧(ロシア+CIS、ポーランド、チェコ、ハンガリー、セルビア+モンテネグロ、クロアチア、ブルガリア、スロヴェニア、スロヴァキア、ウクライナの10ヶ国)
■中南米(メキシコ、ブラジル、ボリヴィア、ベネズェラ、ペルー、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア、エクアドルの10ヶ国)
■西欧(オーストラリア、オーストリア、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ポルトガル、ギリシア、ベルギー、デンマーク、アイスランドの17ヶ国)
■東南アジア(韓国、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、の6ヶ国)
■中国(中国と香港)
■日本
■中東・アフリカ・インド(トルコ、エジプト、ガーナ、南アフリカ、東アフリカ共同体、レバノン、イスラエル、UAE、インド、ナイジェリアの10ヶ国)
■北米(米国とカナダ)
■その他 Boxoffice Mojoの各映画のForeignの合計金額は、Foreignの明細欄に登場している各国の合計値と常に数%差が出ています。上記諸地域内に関し、西欧はほぼ全部の国がBox Office Mojoに数値がありますが、一方、東欧については、ルーマニアやバルト三国、ベラルーシ、東アジアでは台湾、ベトナムなどは、数年前は各国集計値があったものの、恐らく現在は「その他」として、合計数値に含まれているものと考えられます。
■名目GDPシェアは、こちらの「世界経済のネタ帳 世界の名目GDP(USドル)ランキング」からもってきました。出典はIMF - World Economic Outlook Databases (2014年4月版)とのことで。GDP欄の「その他」には113ヶ国が含まれています。
■左から右へ向けて売上が高くなる順番で並べています。
世界で150億の興行収入のあった映画『47 Ronin』は何が悪かったのか_a0094433_192339.jpg

 売上地域構成比がGDPの比率に一番近い作品は、『エリジウム』や『バトルシップ』と言えそうです。『ジョン・カーター』と『47 Ronin』は中国では公開されていませんので、仮に『47 Ronin』が中国で公開され、GDP比率程度を売り上げた場合、151億の13%ですから、19.63億円となり、170億円に到達します。韓国でも公開されたとしたら、GDPの1.68%なので、2億5千万、こでれ大体173億円になります。仮に中韓で公開され、GDP比率くらい売上たとしても、295億にはとても届かず、焼け石に水という感じです。

 この表で次に目についたのが、売上が低くなる程(グラフの左に行くほど)、東欧・ロシアの割合が増えているように見える点です。そこでロシアの売上高だけ抜き出して並べてみました(上の表に無い作品も3本追加しています。右端の『ホビット2』は、ロシア興行成績歴代10位、『47Ronin』は48位)。世界歴代興行収入3,4,5位の『アベンジャーズ』、『ハリーポッター8』、『アイアンマン3』を歴代24位の『ホビット2』が上回っています(歴代興行収入ランキングはBoxoffice Mojoのこちらから)。47Roninの健闘ぶりが目立ちます。
世界で150億の興行収入のあった映画『47 Ronin』は何が悪かったのか_a0094433_19351056.jpg

 更に、『47Ronin』『ジョン・カーター』では、「その他」地域のシェアが、他の作品と比べると大きくなっています。あまり国籍色の強くない、無国籍映画程GDP比率に近づくのではないか、という印象を受けました。

 最初の表を見ますと、売上が大きいほど、北米と西欧の比率が高そうに見えます。そこで、地域構成割合を含む売上金額順の表を作成してみました。
世界で150億の興行収入のあった映画『47 Ronin』は何が悪かったのか_a0094433_1956640.jpg

作品名の横の括弧は、歴代興行成績順位です。数百億以上の規模においては、西欧(オーストラリアとニュージーランド含む)と北米で稼ぐことが利益最大化の第一要因でありそうな印象を受けます。これらの作品の中で、北米だけで制作費が回収できているのは『ハリーポッター8』と『アイアンマン3』と『ゼロ・グラビティ』だけ。その他の作品の中でも、北米と西欧合わせて回収が出来ているのは、『エリジウム』だけ。

 ここ数年で急激にハリウッド映画の予算規模が膨張している印象があります(こちらの歴代映画予算高額ランキングリストでは、制作費150億円以上の作品67本のうち、2004年以前のものは8本しかありません(『47ronin』は44位にランキングされています)。予算規模の急激な膨張は、グローバリゼーションと大いに関係があるのだと思っていたのですが、今回の調査からすると(映画については、マーケット分析の仕方もわからないので、分析とはとてもいえない、少し調べただけの印象に過ぎないのですが)、200億前後かそれ以上予算をかけた作品で無国籍映画を作るのは、新興国や途上国との所得格差が大きい以上、無謀なように思えます。グローバル映画といえど、予算のかかる大作映画の場合は、北米・西欧市場をターゲットとした作品を制作することが、現段階では、まずは重要である、という印象を受けました。結局のところ、韓国製品の主要市場が新興国のボリューム・ゾーンにある一方、トヨタが北米市場中心の販売展開をしているようなことと似たような印象を持ちました。そこで、念のため一応トヨタ社のサイト「トヨタの地域別生産・販売・輸出台数」からデータを持ってきて、地域販売台数の北米・欧州(東欧・ロシア、オセアニア含む)、アジアの比率を調べてみまたところ、トヨタは寧ろ、GDP割合に準じた構成に移行していることがわかりました。映画のチケット代が安い新興国と異なり、自動車の場合は新興国でもあまり安くできないという点が影響しているのかも知れません。
世界で150億の興行収入のあった映画『47 Ronin』は何が悪かったのか_a0094433_2049067.jpg

 こうなると、興行収入金額ではなく、各国の平均的チケット代を調べて、動員数を比較する必要が出てきますが、手間がかかりそうなので今回は見送りたいと思います(そういえば、書籍の場合は、売上金額よりも、部数の方が尺度になっています。全世界で1000万部売れたとか。米国だけの観客動員ランキングはこちらに見つけました(『風と共に去りぬ』が『スター・ウォーズ』を10%以上離して一位)が、ワールドワイドのモノは直ぐには見つかりそうにないので、今回はパス)。



 『47 Ronin』の話に戻りますと、当初この作品にはまったく興味が無かったのですが、公開当時、ネット上でのネガキャン(空席しか写ってない写真の大量コピペとか、中国と一緒にされてケシカラン。こんな映画はヒットさせてやるものか、とか欧米のステレオタイプなオリエンタリズムへの反感など)と、サクラ(ヤサセ)っぽい激賞の両極端ばかりが目立ち、作品の内容に踏み込んだ批評を殆ど見かけなかったことから、この作品は本当に駄作なのか実見して確認したいと思っていました。ところが、あっという間に公開が終わってしまったので、機会を逸してしまっていました。今月dvdレンタルが出たので漸く見ることができました。

  私はファンタジー映画を殆ど見ないし(ロード・・もハリー・・、パイレーツ・・・も見たことなし)、RPGをやったことが無いので、ファンタジー映画をどのように捉えたらよいのかわからないのですが、『47ronin』は、ステレオタイプなRPG世界のイメージに近い印象があります。このあたりも、観客層のターゲットだったのかも知れませんが(映画企画者達が日本人が多く参加する日本のファンタジーゲームの世界を体験して、こういうニーズがあると思い込んだとか)。

 基本的にはdvdのアマゾン・レビューに書かれているような印象ですが、この記事の表題、「映画『47 Ronin』は何が悪かったのか」の回答を私なりに出すとしますと、結局のところ「予算規模」ということになりますでしょうか。宮崎駿のような芸術家ならば製作者の構想と勢いだけで作ってしまったりすることもあるのかも知れませんが、100億とかになる予算規模の大きな作品は、製作会社もそれなりにグローバルでの市場調査を行なって企画を検討すると思うのですが、少し数字を調べただけでも、市場調査をちゃんとやったのか疑わしい感じを受けました。中国と日本を一緒にする感覚やステレイタイプなどは、今更な感じですし、こうしたイメージの作品が日本でヒットしないのは仕方が無いとしても、日本でヒットしないことを折り込んで、制作費を70億円程度に抑え、諸経費含めて130億円くらいに抑えておけば、なんとかうまく収まりのついた作品にはなったのではないかと思う次第です。もしかしたら、日本で『ハリーポッター』や『ラストサムライ』が100億円以上稼いだので、本作でも日本だけで100億以上当て込んだということであれば、それは願望と想像だけであって、市場調査とはいえないでしょう。作品の内容以前に、ビジネス的な諸点がどうにも気になります。結局のところ、『ラストサムライ』は140億の予算で、日本119億、北米111億、トータル457億売り上ていることから、これと同じくらいいけると勢いだけで見切り発車してしまったということなのかも知れませんが、製作決済を行なった企画書に、売上見込みとその根拠がどのように記載されていたのかを見てみたいものです。

 「B級映画を少しボリュームアップさせて予算を付けて、それなりのスターも起用して70億円くらいで製作した無国籍映画」だと思ってレンタルで気晴らしに娯楽作品を見る程度であれば、それなりの納得度が得られる(こともある)作品なのではないかと思う次第です。

 本作を楽しむ為の脳内変換版を作ってみました。

・予算は70億程度の作品だと思いこむこと
・冒頭の怪獣は、普通の熊狩り場面に変換
・舞台の地形は、中国広西省あたりからベトナム北部の海岸地帯の地形(より具体的には桂林からハロン湾あたりの奇岩地帯)に似ているので、このあたりで活躍していた倭寇の話だと思うこと
・殿中刃傷沙汰で日本を追放された吉良上野介が浅野家の姫を浚って、家臣とともに倭寇に参加し、ベトナム-中国国境付近に根拠地を作って活動
・映画に登場する徳川将軍は、琉球王と考える(沖縄の人の怒りを買うかも知れませんが)
・殿中刃傷沙汰とその後のお家取り潰し場面は、柴崎コウに将軍を演じさせ、『大奥』のイメージを挿入
・浅野家浪士達が、艱難を配して琉球諸島からベトナム北部に渡り、吉良の根拠地に討ち入る
・菊池凛子は、普通の陰陽師(龍に成る場面は妖術による幻影だと考える)、キアヌは東アジア海域の南蛮貿易に従事する流れ者
・天狗は緒方拳の実演
・切腹の場面はカット(105分地点で見るのを止める(映画版127分に対して、dvdは121分しかないので、6分間がカットされている模様))
 


 ところで、Box Office mojoは、アマゾンの子会社だったと、今回はじめて知りました。IMDbもアマゾンの子会社ですし、知らないうちにアマゾンの利用頻度がまた上がっていたことに気づいた次第です。もう一つ、ブラジルやロシアは、新興国並の売上高になっているのに対して、インドの売上が低すぎるのが気になりました。公開館数も少ないし、ライセンス・ラージの国ですし、インドには、中国のような外国映画制限があるのかも、と疑っています。このあたりもそのうち調べてみたいと思います。

by zae06141 | 2014-04-29 00:34 | その他小説・映画関連
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