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前回の記事で、久しぶりに、過去に観たSF映画を振り返ってみて、突然「ホーリー・マウンテン」を観たくなってしまい、アマゾンを検索してみると、来月3月4日に、以前の版よりも廉価版DVDが発売されるとのこと。そういえば、アレハンドロ・ホドロフスキーは3部作の残りの「サンタ・サングレ」と「エル・トポ」をいつか観ようと思いつつ、観ないうちに近所のツタヤから消えうせていたことを思い出し、このチャンスに新版を購入すべきかどうかを再確認すべく、新宿ツタヤへ行って3作まとめて借りてきました。毎日1作づつ見て、本日最後に「ホーリー・マウンテン」を見終わりました。
この作品、1988年の公開時に観ているのですが、その時は、「人類の歴史の負の部分の縮図」だとの衝撃を受けました。今回は、最初に観た時程の衝撃はありませんでしたが、人類の歴史の負の部分の縮図だという感想は変わりませんでした。 冒頭の膨大な無造作にうち捨てられたキリスト像の山やカエル十字軍団、キリスト像と寝てカエル語を話す司教などは、宗教や信仰の堕落と暴力化の象徴。軍隊による市民弾圧・虐殺とそれを撮影する観光客は、現在まさに中東で起きている事態とその報道を見る「先進国」の人々の象徴。「ホテル・ルワンダ」でも、記者が「これほどの殺戮も、先進国の茶の間では「怖いね、悲惨だね」で終わりなのさ」とコメントする箇所があったが、それと同じです(ただし、20世紀の中南米では、宗教の堕落や独裁政権が市民を虐殺し、米国の観光客が撮影する、など多く見られたことですので、監督は人類史など念頭にはなく、20世紀の、まさに現代の中南米を念頭に置いていたものだとは思うのですが。。。) そして、社会を支配する権力者達が巨大な権力と富を持ち、一般の人々の命をぞんざいに扱い、なお不死と永遠の支配を望み、怪しげな魔術に傾倒してゆくのも人類史上数多く見られた現象です。そして、西欧近代に失望した神秘主義者が真理を求めて東洋へ赴くオリエンタリズムを発生させました。 しかし、この映画の凄いところは(私が勝手に凄いと解釈しているだけだけど)、そのような権力者達が不死と権力を得る賢者となる為に出た試練の旅が、くだらないカルト的なイニシエーションの旅と化し、最後はその事を自覚した終幕を迎えるところにあると思うのです。ラストは一瞬狐につままれたように思えるかも知れませんが、私的には極めて理性的な終わり方だと思います。アレハンドロ・ホドロフスキー監督の3部作は、全てカルト映画に分類されるのが一般的ですが、私は「ホーリー・マウンテン」はカルト映画だとは思っていないのでした。まあ、カルト的な印象を受ける人が多いのだとは思うけど。。。公開時に観た時も、私は人類史を扱った、ある意味歴史映画だと思ったのですが、同じ歴史専攻だった同級生の友人からは「サイケ映画」との印象を聞かされ、かなりがっかりした記憶があります。まあ確かに、60-70年代のヒッピー文化、カウンターカルチャー色が強い作品だとは思うのだけど、ラストの意味を深読みすれば(私としては普通の解釈なのですが)、本作の本質はカルト作品ではないことは明らかだと思うのですが、カルト映画としてしか受け入れられていないようなのが大変残念です。ところで、今ネットを検索していて、日本語字幕版がネットにあがっているのを発見しました。いいのだろうか。。。。ネット版を発見してしまったことで、3月4日発売予定のdvd、購入しようかどうしようか悩んでいるところです。私は、これを歴史映画の変種として観ましたが、この手の作品が苦手な人にはお奨めはできないところも残念です。 続いて「サンタ・サングレ」 本作は、ホドロフスキーにしてはわかり易い、との評がありますが、カルト色の強い前2作と比べると、普通の映画だと思います。素人くささが返って味を出していた前2作と異なり、ある意味プロ的な作品に仕上がっている、とも言えると思います。それが、監督の熟練なのか、「こういう作品も撮れる」という多才さなのかはわかりませんが、3作それぞれ意図的に工夫された映像なのだとすると、彼が映像の魔術師と称されるのもわかります。しかし、普通に考えれば、3作を通して成長したと考えるのが妥当にも思え、「映像の魔術師」という意味ではセルゲイ・パラジャーノフやシュワンクマイエルほどでは無いと思います。 本作は、ヒチコックやデビッド・リンチなどが作っていても良いようなサイコ・スリラーだというのが私の印象です。前2作の先入観があると、前2作が受け入れられなかった人は未見なまま敬遠してしまうかも知れません。「カルトのホドロフスキー」という先入観で本作を観ると、カルトファンには物足りなく(かなり普通の映画)思え、カルトにあまり興味の無い人は、その先入観から見逃すことになっていそうで、もったいない気がします。 取りあえず「カルトのホドロフスキー」「ホドロフスキー3部作」という色眼鏡を外し、ただのサイコ・スリラーとしての側面がもっと知られても良いのではないかと思うのです。主人公は現実と非現実、主観と客観のカオスを彷徨うのですが、そんな主人公を最後まで助けるヒロインには心をうたれます。主人公を非現実な世界のまま助けるのではなく、あくまで現実の世界で救おうとするヒロインのラストの姿は感動ものです。 デビッド・リンチ作品が好きな人にはお奨めかと思います。 というわけで、この監督の三部作で本当の意味でカルトや前衛と言えるのは「エル・トポ」だけなのではないかと思うのです。 「エル・トポ」はちょっとわかりませんでした。これこそカルト映画と言えるのではないでしょうか。人生修業がテーマなのはわかりますが、何故か何発撃たれても死なない主人公、突然お供の女性二人が相思相愛となり、二人に捨てられる主人公。供の女性が思いついたように「4人の達人を倒して」と言い出し、主人公が何の迷いもなくその気になってしまうのも意味不明。それでも前半というべき西部劇調のところは良かったのですが、後半、「詩篇」以降は、前半とは逆に、部分部分の意味はわかっても、全体の流れが意味不明。わけがわからないながらも(あまり)退屈しないという、正にカルト的魅力のある変な作品です。カルト映画好きにしかお奨めはできませんが。。。。 ところで、新宿ツタヤでは、ローマ帝国時代のブリタニアを扱ったソード・サンダル映画、「ハンドラ」がカルトの棚に置かれていてびっくりしました。更に驚いたのは、アマゾンの中古価格の14800円。youtubeに5分程映像が載ってますが、女版「コナン・ザ・グレート」と言った感じで、カルト映画には見えないんだけど、どうしてなのだろう。。。。 ところで、せっかくアラブがホットなのに、脱線しまくり。次回こそはアラブの話題にしたいと思っていますが、来週末は「スキャナー・ダークリー」を観る予定なので、またしてもカルト話になってしまうかも(とはいえ、私はディックをカルトとは思っていないんですけどね。。。)。
by zae06141
| 2011-02-23 00:34
| その他の時代の歴史映画・ドラマ
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